25年ぶりの入之波温泉で、蝉の声とノンアルビール——奈良・山鳩湯

温泉

こんにちは、西風スマイルです。

FIRA60(60歳での、ちょっと早めのリタイア)まで、残り約610日。59歳の会社員です。

今日は、お金の話でも、老後の話でもありません。

温泉の話です。

先日、奈良の入之波温泉(しおのはおんせん)に行ってきました。

この土地に来るのは、25年ぶりでした。

なぜ、急に温泉?

最近、ドライブに行けていませんでした。

夜勤が始まり、20時間の連続勤務があったりして、仕事中心の生活が続いていたからです。

妻の誕生日には、少し落ち着いたレストランで過ごしました。だから今度は、ドライブにしようと。

実は、私には自覚があります。

私は、何かにすぐ集中してしまう。

仕事、ランニング、ブログ。

そこに夢中になっていると、妻との時間の計画が、どうしても後回しになる。

だから、決めていることがあります。

妻に「ここに行きたい」と言われたら、すぐに予定を入れる。

以前、私は意思では動かない、予約が入って初めて動き出す人間だ、と書きました。それは妻との時間についても、同じことです。

意思に任せていたら、たぶん、いつまでも行きません。

25年前、二人目はまだお腹の中

入之波温泉は、奈良の奥吉野にあります。

前に来たのは、25年ほど前。私が32歳か33歳の頃です。

あの時は、家族で来ました。妻と、妻の両親と、上の子。そして二人目は、まだ妻のお腹の中にいました。

当時、この辺りには五色湯という温泉があって、平日でも泊まることができました。私にとっては、大台ヶ原へ向かう時の、ちょうどいい拠点だったのです。

そんなに頻繁に来ていたわけではありませんが。

つまり、今回入った山鳩湯は、初めてでした。同じ入之波温泉でも、宿が違う。

そして、正直に白状します。

25年前に入った五色湯の湯のことを、私はほとんど覚えていませんでした。

道中の景色は覚えています。あの頃の私は、温泉そのものより、アクティビティのほうに興味があったからです。山に登り、歩き、動くことが目的でした。

同じ土地に来て、同じような湯に浸かっていたはずなのに、湯の記憶だけが無い。
(後で調べてみると、五色湯は無色透明でした)

25年間というのは、そういう時間なのだと思います。

40度の湯に、最初は物足りなかった

さて、肝心のお湯です。

入之波温泉のお湯は、私の大好きな金湯です。カルシウムが豊富な、独特のお湯。

加温も加水もしていない源泉が、ドバドバと注がれています。浴槽のふちには、温泉の成分が結晶になって、びっしりと積み重なっている。析出物、というやつです。

あの、コテコテの感じ。あれは、加水もごまかしもない証拠です。

ただ、源泉の温度は40度ほど。

正直に言うと、最初は物足りませんでした。

温泉は熱いに限る。私は長いこと、そう思っていたからです。

ところが、10分、20分と浸かっているうちに、変わってきました。

体が、というより、心のほうが柔らかくなっていくのが、はっきり分かるのです。

熱い湯だと、こうはいきません。ぬるい湯は、ゆっくり効いてくる。

そして30分を過ぎたあたりで、別のことに気づきました。

これは、湯あたりするな、と。

お湯が濃いのです。温度は高くないのに、成分の力で、体が持っていかれる感じがある。

40分で出た理由

冬なら、1時間は楽しめます。その代わり、そのあとは昼寝モードになることもしばしばですが。

今回は、40分で出ました。

理由は二つ。

ひとつは、このまま浸かっていると、本気で湯あたりして、帰りのドライブで寝てしまいそうだったから。今日は軽く温泉ドライブのつもりでしたから、一日を昼寝で潰すのは、もったいない。

もうひとつは、もっと単純です。

入る前に、ここに食堂が併設されていることを確認していました。

30分を過ぎたあたりから、頭の中がもう、ビールになっていました。

……誘惑に、負けました。

蝉の声と、ノンアルビールと、鮎

11時ごろから入浴して、12時前に上がりました。

併設の食堂で、「ノンアルコール、ありますか?」と聞くと、「ありますよ」と。

妻が上がってくるのを待ちながら、ノンアルコールビールと、鮎の塩焼きを頼みました。

食堂の隅の席で、外を眺めながら、一人で。

聞こえてくるのは、蝉の声だけでした。

子供の頃の夏を思い出しました。

ここで、正直に書きます。

私のバケットリストには、「ホテルのラウンジで、ビール」という項目があります。

この日の一杯は、それに匹敵しました。

ノンアルコールなのに、です。

なぜだろうと考えてみました。

たぶん、人がほとんどいない場所で、自然に囲まれて、一人で飲んだからだと思います。

気の合う仲間との飲み会も、もちろんいい。

でも、この静けさの中の一杯には、別の良さがありました。

バケットリストに書いた項目が、書いていない場所で、勝手に叶っていた。

こういうことも、あるんですね。

夏の温泉に、裏切られた

今回、いちばん認識を改めたのは、これです。

夏の温泉は、いい。

正直、行く前は少し戸惑っていました。夏に、わざわざ熱い湯に入るのか、と。

でも、いい意味で裏切られました。

40度の源泉かけ流しは、夏にちょうどいいのです。

長く入っていられる。そして山奥のひなびた温泉には、夏には夏の風情がある。

温泉は冬のもの、という私の思い込みが、ひとつ崩れました。

59歳にもなって、まだこういう発見があるのは、悪くありません。

さびれていた、という現実

一方で、少し寂しいことも書いておきます。

25年前と比べて、この辺りは、明らかにさびれていました。

ダムの水量は減り、釣り堀も無くなっていました。もう続かないんじゃないか、と思うほどです。

平日にもかかわらず、お客さんは10組ほど来ていました。お昼ご飯と温泉。それでも、10組です。

交通の便は、決して良くありません。自然は豊かでも、人気があるとは言えない場所です。

ちなみに今の入之波温泉は、宿泊は土日祝のみだそうです。

実は妻は、「ここに泊まりたい」と言っていました。でも、私たちのスケジュールと合わず、今回は日帰りにしました。

泊まれる日が、限られている。それも、この土地の現実なのだと思います。

この山々は、私の思い出の配当

少し、話が広がります。

この辺り——大峰山系から大台ヶ原にかけての一帯は、私にとって、特別な場所です。

50歳の頃、妻とずいぶん歩きました。

弥山と八経ヶ岳の登山。テント泊でした。

大杉谷から大台ヶ原へのトレッキング。山小屋に2泊。

熊野古道の小辺路。高野山から熊野本宮まで、4泊。

関西に、こんなに近くに、こんな手つかずの自然がある。あの頃、本気でそう思いました。

今回、久しぶりにあの山並みを見て、思い出しました。

以前、『DIE WITH ZERO』の「思い出の配当」という考え方について書いたことがあります。若いうちにした経験は、年をとってからも、何度も脳内で再生されて、幸福の配当を出し続ける、という話です。

この山々は、間違いなく、私たち夫婦の配当です。

そして、新しい項目もひとつ増えました。

定年後、この辺りをまた二人で歩く。

バケットリストに、書き足しておきます。

金湯が好きな方へ、少しだけ情報を

温泉の話に戻ります。

入之波温泉のお湯は、成分が濃すぎて、浴槽のふちに結晶が積もっていくタイプです。カルシウムや炭酸水素塩、鉄分などが多い源泉が、空気に触れて析出し、年月をかけて層になっていく。

あのコテコテ感が、加水していない証拠だと思うと、ありがたく浸かれます。

関西で金湯といえば、有馬温泉、和歌山の花山温泉、そしてこの入之波温泉。

有馬は言うまでもなく有名ですが、花山温泉も、関西最強クラスの濃さと言われています。あちらは冷鉱泉なので、温冷交互浴が楽しめます。

濃いお湯が好きな方には、この三つはおすすめです。

※日帰り入浴の時間や、宿泊の受け入れ日は変わることがあります。行かれる場合は、事前に確認してください。私も、食堂の有無は、事前に調べていきました。

帰り道、吉野山のカフェで

帰りは、吉野山まで足を伸ばしました。

桜のシーズンになると、吉野山は人でいっぱいになって、車では入れません。この時期だからこそ、ゆっくり行ける。

カフェで、コーヒーとケーキ。

それで、今日は締めました。

大台ヶ原までは、あと1時間ほどです。行こうと思えば行けました。

でも、今回は最初から予定に入れていませんでした。往復にトレッキングを足すと、3時間はかかります。それをやると、今日の目的が変わってしまう。

日帰り温泉を、ゆっくり楽しむ日。それが、今日の目的でした。

25年で、変わったのは私のほうだった

最後に、この記事でいちばん書きたかったことを。

25年ぶりに同じ土地の湯に浸かって、何が変わったか。

温泉は、たぶんそれほど変わっていません。周りは、少しさびれました。

変わったのは、私のほうです。

温泉を楽しめる余裕が、できました。

32歳の私は、あの湯のことを覚えてもいませんでした。動くことに夢中で、浸かることの意味が分からなかった。

それが今は、40度のぬるい湯に40分浸かって、心が柔らかくなるのを味わっている。

しかも、オープンカーで来られる。

屋根を少し開けて、山道を走って、温泉に入って、蝉の声を聞きながらノンアルビールを飲む。

なんて素敵なんでしょう。

59歳で、これを楽しめる。

歳を重ねるのも、いいもんです。

……とはいえ、ビールがノンアルコールなのは、運転手だから。

610日後には、あそこで本物を飲んでやろうと思っています。妻に運転を頼んで。

それでは、また。

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